2010年9月20日月曜日

キャッシュ・プーリング2

前回に引き続き、今回はキャッシュ・プーリングのメカニズムについて述べたい。

各銀行が提供するシステムは、サービス名称や会計などの処理方法によって資金の認識方法が変わってくる為、一見違うサービスに思えることもある。しかしながら過去3行で働いた経験によると、どの銀行でも基本の部分は同じであり、いたってシンプルなものである。

ではこの基本部分とはどんなものか?
これは一般に、スィープと呼ばれる自動的に資金移動するサービスとプーリングと呼ばれるいくつかの口座残高を相殺するサービスの2種類だけで、後はこれを企業の形態やニーズにあわせて色々組み合わせていくだけである。ではこの2つの詳細を見ていく。

スィープ
二つの口座をリンクさせて資金移動するもの。大抵はオートスィープと言われるように、自動的に決められた口座が決められた残高になるように、資金が移動するものである。

図1
例えば左の図1のように口座Aと口座Bがリンクしていて、経常口座が口座Bとする。すなわち口座Bの残高は日中絶えず変化する。一番基本的なスィープは口座Bの毎日の最終残高がゼロになるように設定される。すなわち口座Bの残高がプラスなら全資金が口座Aへ送られ、口座Bの残高がマイナスなら口座Aからマイナス分をうめる資金が届く仕組みである。

口座Aと口座Bの所在国が違えば、クロスボーダー(国境を超えた)・スィープと言われる。当然スィープを自動で起動させるには銀行のシステムを使うわけであるから、銀行のシステム上、出来ることと出来ないことがある。例えば、口座Bがある国にプーリング提供銀行の支店、又は提携銀行がなくてオート・スィープが設定できない場合、口座Bから口座Aへ、又は口座Aから口座Bへ普通に送金すればマニュアル・スィープとなる。但し一々送金を起こすのが面倒な場合には、このような細かいシステムの差がプーリング提供銀行を決めるポイントになることもある。

また銀行によっては、口座Bの残高をゼロだけでなく自由に設定できるサービスを提供している。例えば、口座Bの残高を絶えず1,000ユーロにしておく、といった具合である。また口座の記帳が煩雑になるので、スィープの最低金額を決めておけるサービスもある。例えば、スィープの最低金額が5,000ユーロだった場合、口座Bの残高を毎日ゼロにするのでなく、5,000ユーロ以上になるまで待ってからスィープされるということである。またこの例の前者と後者を組み合わせると、口座Bの残高が6,000ユーロ以上になって始めてスィープされ、口座に1,000ユーロ残る。

では法律、及び会計的な視点からこのスィープを見ていきたい。
もし口座Aと口座Bの名義が同じだった場合、法律上も会計上も何も変わらず、名義会社の現金として認識されるだけである。ただ口座のある場所が違うだけの話である。ところがこの名義が違うと「資金移動の理由」が必要になってくる。大抵はグループ会社内でスィープとプーリングを設定するので、この場合資金が動く方向によってグループ会社に対する「貸付」と「借入」が発生することになる。すなわち会計上、別項目になるわけである。当然それに対する書類を整備しなくてはいけないので、導入時のこの手の契約書は大抵煩雑極まりない。また財布の紐を握られることによる抵抗(分かりやすく言えば、奥さんに1円単位でお小遣いの出入りを管理されている旦那さんのようなもの)もあるので、通常はなかなかスムーズに導入できないのが現状である。

とはいえ連結決算で考えると、グループ間ローンは相殺できるため、最終的にはバランスシートを圧縮することが出来、故にあらゆるファイナンシャル・レシオも向上する、という効果もある。

プーリング
大抵はスィープで各地から集めてきた残高を相殺するために設定されるのがプーリングである。
図2

イメージとしては左の図2のような感じで、赤い線で囲ってある口座が相殺される。口座名義はスィープの所でも述べた通り、どの名義になっていても良いが、要はその相殺を銀行のシステムで出来るか、出来ないか、というだけである。

大抵の銀行の場合、相殺した最終残高がマイナスであれば、オーバードラフト(当座貸越)やローンとして認識する為、あらかじめファシリティ(貸越枠)を設定しなければならない。またプーリング参加のメリットを出す為に、各口座に金利をつけて参加会社に還元したりするが、この辺も銀行によって金利の受払をどの口座でするか自由に設定できたりすることもある。

何年か前まではこのプーリングは通貨ごとに相殺していたが、銀行によってはさらに進めて多通貨で相殺出来るサービスもあり、そのシステムを上手く使って安い金利で資金調達をして、高い金利で引き出すといったキャリー・トレードをしている企業もある。

またアジア地域では現地通貨の移動に様々な制限がかかるため、これらを動かさずに相殺できるシステムを持っている銀行もある。これをプーリングを呼んでしまうのは規制などの観点から賛否の分かれる所であるが、多国籍企業グループとして各グループ会社の残高を相殺できるという意味では同じ類のサービスであることには違いない。

実際にどういったサービスがその企業にあっているのかは、その企業の事業形態や地域、その他のニーズによる。但し、これらの仕組みは理論上は単純だが、銀行システム上はかなりシステム開発を必要としたりする為、昨今ではシステムを持っている銀行にサービスのアウトソースする銀行もでている。とはいえ、システムに対する依存が大きいこのようなサービスの場合、システムトラブルがあると銀行側で行員がマニュアルで訂正したり(これがまたさらなるミスを生んだりする訳だが・・・)、ということも度々起こるため、目先の損得や、これまでの銀行との付き合いだけでなく、やはりシステム開発を惜しまず安定的なサービスを提供でき、それらのフォローをしっかりしてくれる銀行を選んだほうが得策といえる。特にこのようなサービスを一度導入するとなかなか簡単に違う銀行に変えられないことから、なおさら、である。


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