2010年9月7日火曜日

キャッシュ・マネージメントの集中化

業務の集中管理(セントラライゼーション)は企業の規模が大きくなればなるほど必要とされることである。管理体制がきっちりしていない所に事業の拡大をすると、大抵どこで何をやっているのか把握できなくなってしまう。しかし集中管理をすることで、さまざまな業務のプロセスを社内で統一でき、これによって社内体制の透明化にもつながるのである。つまり、最近の企業が存続するのに必要条件とされるリスク管理やコンプライアンスという分野にも好条件をもたらすため、多国籍企業のキャッシュ・マネージメントの集中化は好まれる傾向にあると言える。

但し、集中管理にもメリットとデメリットが存在する。ここではその両面をあげてみたいと思う。

メリット

  • 情報が集中化することで、タイミングよく、効率的に社内のキャッシュを管理できる。
  • 扱う管理規模が大きくなる為、金融機関などからの情報提供やサービスが向上する。
  • いざと言う時の為の現金を各拠点で管理する必要がなくなるので、会社全体の現金保有量を削減することが出来る。
  • キャッシュ・フローがまとまることで、フローの波が相殺されることで安定し、流動性が向上する。
  • 安く調達、高く運用できる場所を選ぶことができるので、支払利息を削減し、受取利息を増加させることが出来る。
  • 市場、送金手数料、為替リスク、税金優遇などを比べ、一番条件の良い場所を選ぶことができる。
  • 会社全体で純利益を上げるための財務管理が纏めてできるようになる。
  • 知識や経験の共有がさらに向上する。
  • 同じ業務量を少人数で出来るようになり、人件費や経費削減につながる。
  • 赤字拠点を黒字拠点で補って相殺できる。
  • 人為ミスのリスクの削減
  • 会社の財務ポリシーの管理が容易になる。
  • さまざまなファイナンシャル・レシオが向上するため、信用格付けや企業価値が向上する。


デメリット

  • 収益の大部分はビジネスにおいて作り出されるので、財務部分の集中化だけでは効果は限られる。
  • 各地での情報が減り、さらにその場所ごとの好機やメリットが配慮されない。
  • 現地でのノウハウの蓄積が減少し、キャッシュ・マネージメントの重要性が放念される。
  • 権限がトレジャリー・センターに移行するということは、財布の紐を親に握られるようなものであるので、現地では受け入れられにくい。
  • 現金が一つの銀行に集まることで、銀行取引が減り、競争原理が働かなくなる。
  • 銀行の売掛金受取口座を変えることが難しい為、なかなか全ての現金の同日付けバリュー管理(無駄に現金を普通口座に寝かせて一晩こさないこと)は難しい。
  • サービス提供銀行がよくなくても、同じ理由で簡単に変えられない。
ざっと見ただけでもこれだけある。現在、いわゆる大企業と呼ばれている会社はなんらかの形で現金の集中管理をしている。色々な規制などを鑑みて、大抵は地域ごと(アジア、欧州、アメリカなどのよう)に分けてそこで集中管理した上で、世界全体を管理するという形が多い。大抵の銀行の場合、この地域ごとの集中管理をするサービス(スイープ、プーリング、ネッティング、金利優遇商品など)を提供しているが、中には1つ上の世界ベースの管理を売り物にしている銀行もある。また世界統一管理する為に、銀行間で使うSWIFT(送金や情報のやり取りの為のシステム)を使って自社で集中管理する会社も出てきている。

これまでのトレンドは、大企業から始まったこのキャッシュ・マネージメントの集中化がもう少し規模の小さい中企業へ浸透していった所に思える。但し、この集中管理を導入してかなり経つ企業では、デメリットを少なくする為に試行錯誤しているのが現状である。


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