2010年12月2日木曜日

SWIFT


ここまで、キャッシュ・マネージメントの理論を見てきたので、今回から少しオペレーション部分に触れてみたいと思う。まずは海外送金には必須となるSWIFTについて触れてみたい。

海外送金に関わったことがある人なら、この「SWIFT」はお馴染みの言葉であると思う。なぜなら海外送金指示書には必ず記入するように銀行でうるさく言われるからである。では実際にSWIFTとは何なのか?

SWIFTとは英語で「速い」という意味があるが、金融業界で使われるSWIFTとはSociety for Worldwide Interbank Financial Telecommunicationの略で、国際銀行間通信協会のことをさす。この組織では、あらゆる銀行や金融機関(一部の多国籍企業)の間でやり取りされる金融関係の通信を世界的に扱う。

海外送金に関わる銀行間での通信は、殆どの場合、このSWIFTのネットワークを使って行われる。但しあくまでも情報の通信だけであって、SWIFTでは送金の決済は行われない。分かりやすく言うと、A社からB社にお金を送るのに、A社の取引銀行が現金を持ってB社の取引銀行に行く代わりに、EメールのようにSWIFTを使って、「A社からB社へこの日にこれだけの送金があります。こちらで送金手続きしたので、あとは入金手続き宜しく」と情報を送る、ということである。そしてこのEメールアドレスに当たるものが「SWIFTコード」や「BICコード」である。

実際の決済は、さまざまな決済システムを通して行われる。国によって、或いは送金の種類によって、そのシステムを使い分けることになる。但し、その処理はあくまでもこのSWIFTの情報を元に行われる為、ここの情報が間違っているとお金が行方不明になる可能性もあり、そこで銀行でうるさく「記入してください」と言われることになるのである。

実際にSWIFTメッセージには様々な種類が存在する。例えば、上記のような送金情報に関わるものであれば、受け取り銀行宛に送るメッセージ(MT103)や、受け取り銀行以外の間に入る銀行(コレスポンデント銀行)に送るメッセージ(MT202)などが代表的なものである。それ以外にも口座情報をSWIFTメッセージで送るのもよく使われる方法である。例えば、銀行の基幹システムで記帳された口座の入出金情報をEバンキングで反映させるのに、SWIFTメッセージを使うのである。

これを応用したのが、色々な銀行にある口座をまとめて管理するEバンキングである。多国籍企業の場合、どうしても取引銀行数が多いので、各銀行のEバンキングでそれぞれ口座管理をしていると、それだけですごい事務作業になってしまう。各銀行それぞれのユーザーネームとパスワードの管理だけでも頭痛の種になるだろう。これを例えば銀行Aでまとめて管理することにしてしまえば、その他の銀行から銀行Aに各口座情報をSWIFTで送ってもらえばいいのである。最近は大手の銀行はどこもこのようなサービスを提供しているので、なかなか便利といえる。当然、その他の銀行になった場合は、メインで使ってもらえないわけであるから「しぶしぶ設定の依頼をうける」ことになるだろうが・・・(笑)

これをさらに発展させたものが、企業用のSWIFTサービスである。分かりやすく言うと、口座管理や送金指示などの銀行サービスを銀行のEバンキングを使わずに、いきなりSWIFTを使って企業側でやってしまおうというものである。つまり、企業のシステムをSWIFTにあわせて1つ作ってしまえば、口座管理も、それ以外の取引も、理論上は簡単に出来てしまうということである。SWIFTはこれまで金融機関だけが使えたネットワークであったが、これを企業側にも開放して以来、その数はますます増えている。大企業から率先して導入していたこのサービスだが、現在SWIFTのホームページによると、マイクロソフト、インテル、GE、デュ・ポンなども使っているようである。

ただ銀行員時代、このSWIFTサービスの初期設定に関わったことがあるが、やはりシステムとはそう一筋縄でいくほど簡単ではないので、設定にはかなりの時間と労力を要した。故に、その時間と労力をかけてでも立ち上げる価値のある規模がなければ、やはり現実的ではないのかというのが、これまで見てきた中での正直な感想である。

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2010年10月25日月曜日

運転資金マネージメント2

前回述べた通り、運転資金がプラスであっても流動性の質が問われる、という部分をさらに掘り下げてみたいと思う。

流動性という意味では、バランスシートの上から順に、下に行くほど流動性が高い。つまり、在庫よりも売掛金が、売掛金よりも現金の方が流動性が高いことになる。すなわち、いかに早く在庫を売掛金にし、売掛金を現金にするか、ということが重要となってくるのである。この現金化されるまでの期間のことをキャッシュ・コンバージョン・サイクル(Cash Conversion Cycle = CCC)という。

このCCCはサプライヤーから購入して支払うまでの期間、顧客からオーダーを受けてからその支払いを受け取るまでの期間、及び、原料を受け取ってから最終商品を顧客へ届けるまでの在庫期間によって決まる。分かりやすく言うと、「在庫期間をなるべく短くし、顧客からは売掛金をなるべく早く回収し、買掛金は支払期日のぎりぎりする」ということである。

例えば、在庫期間を短くする為に考えられた代表的なのがジャスト・イン・タイム・システムである。原料が必要になるその時にぴったりあわせてサプライヤーに原料を配達してもらう、というシステムである。この辺はストック・コントロールの分野にあたる。また支払いについては、受け取るほうも、払うほうも、支払い条件、方法、期間などが鍵となってくる。

ちなみに支払いを効率的にする為に考えられたのがペイメント・ファクトリーやネッティングである。ペイメント・ファクトリーはその名の通り、グループ会社の支払いをペイメント・ファクトリーで纏めてするというものであり、ネッティングは各支払いを相殺して、差額(ネット)分だけ決済するというものである。

ここからは会計分野になってくるが、実際のCCC計算方法を紹介する。

CCC=在庫回転期間+債権回転期間-支払勘定回転期間

在庫回転期間 = 在庫平均 / 売上原価 X 365
債権回転期間 = 売掛金平均 / 信用販売 X 365
支払勘定回転期間 = 買掛金平均 / 信用購入 X 365

では例を使って計算していく。

右の例は必要な数字だけBS及びPLから抜き出したものである。便器上、売上は全て信用販売、原料の購入は全て信用購入とする。

在庫平均 = (300 + 406) / 2 = 353
在庫回転期間 = 353 / 2,272 X 365 = 56.7日

売掛金平均 = (240 + 273) / 2 = 256.5
債権回転期間 = 256.5 / 2,681 X 365 = 34.9日

買掛金平均 = (221 + 314) / 2 = 267.5
信用購入額 = 2,272 + 406 - 300 = 2,378
支払勘定回転期間 = 267.5 / 2,378 X 365 = 41.1日

CCC = 56.7 + 34.9 - 41.1 = 50.5日

つまりこの例に使った会社は原料が使える現金化されるまでに平均50.5日かかるということである。



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2010年9月28日火曜日

運転資本マネージメント

運転資本(ワーキング・キャピタル)とはビジネスを「運転」していく上で必要な資本を指し、流動資産と短期負債との差額のことである。短期負債は企業の支払い義務であるから、その義務を果たして尚且つビジネスを運転するのにどれだけの現金、及び現金化しやすい流動資産がまだあるか、ということであるから、運転資金がプラスであることが好ましいのは言うまでもない。

実際に流動資金は在庫、売掛金、現金(含:有価証券など)から成り立っており、短期負債は買掛金とその他ローンなどから成り立っているので、運転資金マネージメントをどのような戦略でするかによって、現金や在庫の量、顧客の支払い条件、業者への支払い条件などが影響されることになる。

では例を使ってそれらの詳細を見ていく。下の表はA社とB社のバランスシートである。












この2社の運転資本は
A社 = 60 + 40 + 100 - 30 - 50 = 120
B社 = 125 + 130 + 5 - 100 - 40 = 120

このように全く同じである。では違いは何か?
1.A社の運転資本は現金保有量が大きい為、流動性が高い。つまり、急な支払いがあってもA社はすぐに支払いができるのに比べ、B社は売掛金の回収に依存せざるをえない。

2.A社の買掛金は30で、B社は100である。つまりB社のほうが支払わなければならない請求書をたくさん抱えていると言うことである。よってB社はA社よりここでも流動性が低いことになる。

すなわち、運転資本がプラスであっても、流動性の「質」も問われるということである。実際にはこの質はバランスシート上の5つのアイテム(在庫、売掛金、現金、買掛金、短期ローン)によって決まる。現金についてはキャッシュ・マネージメントで、短期ローンについてはコーポレート・ファイナンスのマッチングで触れているので、ここでは在庫、売掛金と買掛金について見ていく。

在庫にはキャリーイング・コスト(carrying costs)と呼ばれる在庫を保有・維持するのにかかる費用と、ショーテージ・コスト(shortage costs)と言って在庫不足によって生じる機会損失の二つのコストがある。但し、キャリーイングコストを削減する為に、在庫を減らしすぎて在庫がなければショーテージ・コストが生じ、それを避ける為に在庫を増やすとキャリーイング・コストが増加するというように、この二つのコストは互いに対立する。すなわち両方のコストが最小になるように多すぎず、少なすぎず在庫を持つ必要があるということである。

では売掛金と買掛金については次回さらに詳しくみていきたい。



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