2010年8月6日金曜日

取引銀行

今日のキャッシュ・マネージメントを語る上で、取引銀行は重要な位置を占める。企業のお金の大部分は銀行口座にあるのだから、当然と言えば当然であるが、実際にはそれ以上の理由がある。

まず一番にあげられるのが融資だろう。企業の主な調達手段でもあり、邦銀の収入のメイン所でもある。元々日本には「メイン銀行」という言葉が存在する通り、贔屓に取引する銀行をがっちり固めているのが大抵の上場企業の現実である。これは銀行が株主であるという現実もあり、フラフラ別の銀行に浮気ができないシステムである。そういう力関係もあってか、別世界から銀行に入ると「どちらがお客さんですか?」と思えるような企業財務担当者と銀行担当者の関係も存在するのである。基本的にバブル経済崩壊後、株の持合の解消や、銀行の貸し渋りなどにより、企業の方も「いざと言う時に銀行はアテにならない」という意識を高めており、積極的に違う銀行との関係を築こうとする動きもある。とはいえ、外銀の営業職につくとこの「メイン銀行」の壁はかなり厚いと言える。

企業の財務担当者に話を聞くと、大企業であるほど取引銀行数が多い。これは企業が大きくなれば、事業ごと、支店ごと、子会社ごと、とねずみ算式に銀行数が増えていくからである。とある日本企業では欧州だけの合計で60もの取引銀行があるそうである。各生産拠点、各販売拠点ごとに4~5の銀行と取引をしていればそれ位になるし、それが必要数であるとのことであった。ここまでの規模になっても数が減らせないのなら、如何に効率よくそれらを管理するかがポイントになってくる。技術の進歩により、銀行のシステムもどんどん進化しており(一部システムに投資していない銀行もあるが・・・)、大抵は別銀行の口座もコンピューターで一元管理が出来るようになってきている。

一方でもう少し規模の小さい企業の場合、逆にものすごく少ない数の取引銀行しかない場合もある。聞くところによると、バブル前まではそれでも二桁の取引銀行があったのに、邦銀がどんどん合併していって、口座が統一されてしまってこの数になってしまったとのこと。邦銀だけでは心配なので、逆に外銀との関係も築きたいとのことであった。何もしなくても様々な銀行が営業に来る大企業とは全く逆の悩みである。また取引銀行数が少ないと言うことは、享受できるサービスに限りがあったり、そのコストがものすごく高かったりもする、ということである。

銀行も勿論ボランティアで商売をしているわけではないので、儲かる客と、そうでない客に対してサービスに差をつける。特に外銀の場合それが露骨なので日系企業は戸惑う場合が多い。「邦銀は親切なのに、外銀はサービスが悪い」というのは良く言われることで「外国は文化が違うからサービスがないのではないか?」と思われがちだが、実際には銀行に儲けさせない会社だからサービスを享受できないというのが事実である。銀行に儲けさせてないのにサービスがいい場合は、その企業を足がかりに日本マーケットに参入したいなどという下心があるからである。

また取引銀行の名前や格で企業の信用力をみたりするからと言う理由で、銀行も選ばないといけない。銀行で働いていると他行の得意分野、不得意分野が良く見えるが、不得意分野で提供できるサービスも明らかに他より劣るのにも関わらずその分野のセールスを伸ばす銀行があったりするが、それなどまさに「銀行の知名度」で決めた最たる例であろう。また会社によってはお金を払って銀行との関係を続けていることもあるが、これなども会社の信用度を維持する為の必要経費と言える。

このように見ていくと、取引銀行数は多すぎず、少なすぎず、かつ適度に銀行を喜ばせる収入も与えながらも、払いすぎず、という微妙な管理が必要なのである。投資の世界では「全部の卵を一つのかごに入れるな」とよく言われるが、取引銀行も似たようなことがいえる。今回世界全体に影響を及ぼした金融危機なども良い例だが、何かあった時でも必ず逃げ道があるのは企業としての強みになるであろう。その意味、世界で有名な大企業(含:外資)は、各銀行の強みを見定めた上で、上手に銀行を使い分けていると言える。



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