2010年7月1日木曜日

歴史的背景

昨今「キャッシュ・マネージメント」という言葉は、財務担当者にとって当たり前の専門用語として日本語に訳される事もなく使われる。一体「キャッシュ・マネージメント」とは何を指すのか、なぜ必要なのか、この辺りを理解するのに必要な歴史的背景をまずは簡単に書いてみたいと思う。

1929年の世界恐慌後、各国が植民地を抱え込んで、ブロック経済(英ポンド、仏フラン、米ドル、日本円)圏を促進させた。関税障壁によりブロック外へ需要が漏れない(つまり保護貿易主義)ことから、各経済圏が分断され、第二次世界大戦へとつながる。この反省、及び戦争による疲弊した世界経済安定化を目的として、俗に言うブレトン・ウッズ協定(United Nations Monetary and Financial Conference)が締結され、国際通貨基金(IMF)や国際復興開発銀行(IBRD)の設立、及び関税および貿易に関する一般協定(GATT)の発足が決まった。GATTは「自由貿易=円滑な国際貿易」の実現を目的に、ジュネーブ・ラウンドから始まり、ケネディ・ラウンドやウルグアイ・ラウンドなどの8貿易交渉を経て、1995年に世界貿易機関 (WTO) 協定の一部になった。つまり、第二次世界大戦の一因となった保護貿易主義の反省から自由貿易が促進され、その安定した利益が先進工業国全体の経済を改善し、世界経済は劇的な高度成長を実現したのである。また自由貿易の促進、及び世界経済の活性化に伴い、様々な形での国際化(グローバリゼーション)が始まることとなる。その一つが企業のグローバリゼーションである。例えば、1970年代や80年代に多国籍企業として成長し始めたのが、米国のジェネラル・モータース(車)や、英蘭合併のユニレバー(食品&生活雑貨)や、日本のソニーなどである。

企業の国際化に伴い必要とされ始めたのが効率化である。世界各地に拠点を作り、そこでそれぞれビジネスを始めれば、当然資金調達の必要性も出るし、売掛金や買掛金も発生するわけである。グループ内取引で発生する売掛金と買掛金の相殺をすることで、グループ内のキャッシュ・フローを単純化しようと1960年代にアメリカでまずはネッティングが始まった。また必要資金をグループ内で調達するグループローンの効率化が始まり、1990年代にはスィープやプーリングと呼ばれる銀行商品が多国籍企業内で採用されることになる。1999年には欧州統一通貨のユーロが発足し、これまでは米ドル中心だった効率化がユーロでも可能となり、欧州を中心にこれらの効率化がさらに加速されることになった。

このことからも分かるように、キャッシュ・マネージメントとは多国籍企業で主に採用されている流動資産管理の一環で、キャッシュ・フローの単純化、キャッシュ・バランスの管理、及び超過資本の効率的な投資(金融商品への投資だけではなく、広義でのビジネスへの還元投資)などを指す。

また蛇足になるが、効率化といえばサプライチェーン・マネージメントやストック・コントロールなどもこれらの効率化現象の一部に当たる。この「効率化=集中管理」が今日の多国籍企業のトレンドである。なぜなら集中管理することで事務の効率化、すなわち人件費も含めたグループ内のさまざまな無駄を最小限に出来ること、また集中管理=社内プロセスの透明化となり、2001年のエンロン不正取引以降SOX法などで強化されているリスク・マネージメントにも貢献できるからである。



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