2010年7月25日日曜日

財務リスク・マネージメント 3

では次にこれまで見てきた為替リスク利率リスク以外で考慮しなければならないリスクをみていく。代表的なものはカントリー・リスクである。

カントリー・リスクとは将来的にその国の環境が企業のキャッシュ・フローに与えるリスクの事を指す。具体的には戦争、テロ、スト、政治危機、貿易や通貨の規制変更などによって影響されるキャッシュ・フローや発生する費用のことである。

実際にカントリー・リスクは政治要因(または政治的リスク)と財務要因の二つに大きく分かれる。政治的要因には次のようなものがあげられる。

消費者マインド
地元消費者の親会社所在地に対する考え方、或いは自国製品を優先する考え方など。例えば、1980年代アメリカで起こった日本バッシングや2005年中国での反日デモなどでの日本製品不買運動などが代表的なもの。また国産牛肉など日本産が外国産より良いとされる考え方なども典型的なもの。

地元政府の方針
環境汚染に対する厳しい規制の施行や、法人税や源泉税の引き上げなど。分かりやすい例は2004年のEUからマイクロソフトに対する4億9700万ユーロの制裁金の支払い命令。これはウインドウズのプラットフォームにウインドウズ・メディア・プレイアーをあわせて販売したことに対し、消費者の選択肢を狭め競合相手の販売経路を奪うとの判断。

通貨の兌換不能、及び送金ブロック
通貨によってはその国の方針として他通貨に自由に交換できないこと。同じく国外への送金、外国からの送金もできなかったり、制限があったりすること。先進国ではあまりないが、発展途上国では一般的である。そのような国に子会社を作った場合、親会社に配当するのが難しい為、再投資して利益をその国にとどめざるを得ない。すなわちそれが狙いの規制である。一方で、その国の雇用拡大などで経済に貢献している場合は交渉次第で例外も作れる場合もある。

戦争やテロ
中東で戦争が起こると石油の値段が上がり、運送料や電気代などに反映する。また2001年の9.11後、西洋の旅行者は減り、旅行産業はかなりの打撃を受けた。

官僚主義や賄賂
お役所主義と国際ビジネスは直接関係ないように思われるが、官僚主義が強い国ではかなりの問題になりうる。例えば、1990年代初めの東欧では国際ビジネスの最たる障害がこの官僚主義だったと言える。また公然と賄賂を要求される国では、賄賂なしでは公共事業にありつけないなど、障害は大きい。国別の不正度具合をランキングしたものは最近ではかなり簡単にインターネットで手に入る。(リンク

一方カントリー・リスクの財務要因とは、現在及び将来的なその国の経済状況である。経済状況が良くなければ消費者需要も伸び悩み、その国でのビジネスは成り立たない。その指標となるのが、利率、為替レート、インフレーションである。

さらにカントリー・リスクはマクロとミクロに分けることが出来る。経済と同じく、マクロはその国全体のリスクで、ミクロは企業特有のリスクである。これを政治要因、財務要因ごとに分けて分析する必要がある。例えば、ある国の経済状態が余り良くなくて、自動車会社が自家用車を売ることを期待できなくても、軍事用や警察用の車で政府から信用できる契約を持っていれば、カントリー・リスクはかなり限定されるからである。

実際には、関係項目を書き出して採点したり、公表されている様々な資料を集めて平均値をとったり、重要項目とそうでない項目によって比重を変えて採点したり、回帰分析(売上成長率とGDP成長率の関係など)したり、キャッシュ・フロー予測をシナリオごとに作ってそのNPV(正味現在価値)を計算したり、色々な方法でカントリー・リスクを数値化することができる。但し、リスク全てを数値化できるわけではないし、実際にリスクが高いことが分かっていても将来的に何が起こるかは起こるまでわからないのが普通である。またどういった要因がどれだけ重要かはどの国でどのようなビジネスをするかによっても変わってくる。つまり独自にカントリー・リスクを分析し、絶えず監視しておくことが重要なのではないだろうか。また、何かあったときに最小限のダメージに抑える為のシナリオを作っておいて、投資を最小限に抑えて短い期間でキャッシュ・フローを回復させる、など普段から十分な準備をしておくのも有効である。さらに持ち株100%の子会社と言う形ではなく現地企業とのジョイント・ベンチャーを設立したり、いざと言う時の為の保険や、バック・トゥ・バック・ローン、プロジェクト・ファイナンスなども有効な場合がある。(カントリーリスクの実例はこちら

最後になったがそれ以外のリスクには顧客の支払いが滞るクレジット・リスク、債務支払い能力(クレジット・レーティング)が下がることによって上がる資金調達コスト、株価下落による企業価値の低下、投資リスク等、財務リスクだけでもあげればきりがないが、大概財務リスクとして議論されるのは、これまで述べてきたものだと思われる。



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